平成18年08月26日(土曜)その1

朝、ベランダに立ってみる
マダラになった薄雲の隙間から太陽の光が縦糸のように降りてくる
そう、雲の横糸と、太陽の光の横糸が
空に織物を織っているような風情だ

朝日が昇り始めた東山の稜線がスッキリと見える

反対側の西山に居並ぶ技大の建物が朝日に照らし出されている

そう、渋海川が信濃川に合流する地点だ、今日もサギが見える

先日、初めて見ておもしろかった「大地の芸術祭」に行ってみようと思った

この大地の芸術祭は地域が広いので一日で全てを見ることは不可能
だから地域を絞って走り回るしかない
それも山の中を、普段だったらまず走ることはないだろうと思う道を走り回る

まず、今日は信濃川沿いの地域というか信濃川と新潟県境の間というか
隣は山を隔てて群馬県と長野県だ

そんな山の中の地域をガイドマップを頼りに走ることにした

先日、ここで能が披露されたという

天井が鏡面仕上げとなっている

まさに何もない自然の中にモダンなバタフライのような舞台がつくられている
思うのだが、こんなすばらしいハードが用意されたなら
こんどはすばらしいソフトが必要になる
果たして今後、ソフト面でこの施設を生かしてゆけるのだろうかと気になるところだ

河童、おもしろい

なんでも青い花を咲かせましょうというプロジェクトだという
なんじゃこれは、というようなものが結構あるが
ま、おもしろいと思えば、実におもしろい
なんじゃこれは、とおもえばそう思う
そこを受け入れるものがあるか
いや、何となく伝わるものがあるか
作者の意図が伝わってくるかどうかがポイントか

車を道路に止めて田んぼのあぜ道を歩く
そして、ため池にたどり着く
そのため池に
なんじゃこれは
わけわからない
なんじゃこれは
しろい徳利というか花瓶というか
そんなものがため池に浮かんでいる


しばらく椅子に腰掛けて眺めている
なんとなく眺めている

水面に映った花瓶の姿がなんとなく気になり始める

何と言われても答えようがないが
なんとなく引かれてくる
何となくゆっくりと落ち着いてくる
何が良いのかわからないが、癒し系だ

途中、いろいろなところがあるが
どうでも良いものや
フッと気が抜けるようなもの
ま、いろいろレベルの程度はあるがいろいろある
ただ、商業主義を感じさせるものはどうも引いてしまう

ま、いろいろおもしろい
手抜きはすぐ見破られる
単なる人寄せパンだでつくったものはおもしろくない

いよいよ集落の一番奥までやってくる
もう一つ作品があるはずだ
番号表示があったので
道ばたに車を止めて坂を登ってみる

なにやらアフリカか中近東あたりにやってきたような雰囲気だ

土の家だ、正面に魔よけだろうか、何かの枝が止めてある
全くの土の家だ、土の匂いがする
外の明るさがめにまぶしくて
急に家の中にはいると目が慣れなくて
おそるおそる中に入る
ちょっと歩くと明かり取りだろうか
明るい窓が目に入る


自然と窓に目がいく
その窓から見えるものは
中庭の中央に植えられた木が目に入る

設計者はキチンと計算してこの窓をつくっている
やられた、と思うような仕掛けだ
入り口からなんだろうと思いながら
恐る恐る入ってくると
異文化の香りがするが
じつは人の心の奥に潜む自然とのふれあいの心を引き出してくれるような空間だ


何とも言えない空間を生み出してくれている
なんなんだこれは
と思うが
何となく引かれる空間だ

心が変わる空間だ
日常とは違う
それこそ「土臭い」空間だ
おもしろい


なんなんだこれは
だから何なんだ
そう、そんな世界が待っている
古屋の中に入る
当然何もない
生活臭さも無くなっている
説明によると、この家から出たホコリを固めたもののようだ
そんなものが展示されている
何なんだこれは
だが、それがまたおもしろい

とにかく理屈ではない
何なんだこれは
そう、それがキーワードなのかもしれない

まず、この作品がなかったら訪れることはない山の中の集落だ
自然がたっぷりとある
というより
時間がゆっくりと流れてゆく
自然のリズムに浸ってゆく
そう、自然のリズムが優先するのだ
自分たちのリズムではなく
自然のリズムに合わせて生活をする
それが本来の姿なのだと教えてくれる

ほそい山道を走る
山の峰をくねくねと走り回る
このまま走って大丈夫なのかと心配になるが
表示がしっかりしているので安心して走る
そう、この表示が道路の分岐点その場所に表示されている
通常車で走っていると
少し前に表示板が置かれるが
ここでは分岐の、その場所に表示が置かれている
歩いている人にとって分かりやすい表示だが
車にとっては通り過ぎてしまいそうな表示だ
スピードを出していると通り過ぎてしまうのだ
だから、みなさんノロノロ運転が多くなる

これはまた何だ
TDKのカセットケースに地域の植物を採取して樹脂で固めて保存し、展示したものだという

透明なケースの中を一つ一つ見てしまう

この青い色がきれいに出ている

固まりとしてみたり、個別を見たり

繊維がきれいに透き通って見える
しかし、よくもまあこんなことを考えつくものだと感心した
すごいエネルギーだ
それも廃校となった学校の体育館に展示されている

その体育館の壁面に卒業式の答辞が飾られていた
つい読んでいっておもしろかった
これは卒業生が読むもので
漢字にふりがなが付けられていた
そのなかで二行目に書かれている文字は
旧仮名遣いの文語文となっている
ふりがなは口語文でふられている

この学校の教室に入った
床に水槽が用意されている
椅子がポツンと置かれている
何もない
あるの窓から差し込む太陽の光だけ

説明を読む
天井にこの妻有の地区を形作ったものが置かれ
そのちょうどこの廃校のある地区の場所から
水滴が落ちるようになっているという
その白い地形は
床に置かれた水槽の水面に映し出されて
ちょうどこの地域の自然の姿を水面に見せてくれるという


天井を見た
何やら一カ所に光ものが見える
ジーッと見ている
だんだん大きくなる
水滴がふくらんでくる
しばらくすると水滴が落ちる

下の水槽を見る
水槽には窓ガラスから差し込んでくる日の明かりが写っている
そこに水滴がポトンと落ちる

そう、波紋が広がる

だんだん広がる

そして、ふちに当たって波紋が戻ってくる

光の帯が揺れる

だからなんだと言えばそれまでだ
何人かの人がのぞいてみては
なんだこれはと
けげんな顔をして出ていった

私はジッと水面を見ていた
波紋が光を惑わして行く
光が太くなって揺らいで行く

そして、静けさがやってくる
光も凜とした毅然さを取り戻す
全ての規律が整然として定まったように静けさがやってくる

ポトンと水滴が天から降ってくる
突如、静寂が一カ所打ち破られる
それは全体から見ればたったの一カ所なのだが
一カ所静寂が打ち破られる

その一カ所から波紋が広がる
最初は小さく、しかし確実に波紋が広がる

だんだん大きな波紋となって確実にまわりに広がる
縁にぶつかる
縁にぶつかって波紋は折り返す
角度が違って他の波とぶつかり合いながら進む

いろいろな角度から波がぶつかり合う
だんだん静けさがやってくる
波もいつの間にかなじんでくる
だんだん、静寂がやってくる
全くの静けさが
落ち着きとなって固まって行く
まるで寒天のように固まって行く
液体なのか固体なのか
鏡のように固まって行く

時間が過ぎて行く
永遠に鏡のように固まって行くように時間が過ぎて行く
突如、天から降ってくる

天は天で、じわじわと水滴がふくらんでゆく
その水滴が光に輝いて真珠のようになる
真珠がダイヤのように輝いたその瞬間
天から地へと落ちて行く


懐かしい学校の階段だ
そう、何か懐かしい匂いがする
階段を上る
まるで文化祭の作品展示を見て回っているようだ

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