合併の場合の欠損金の繰戻しによる還付事例

税理士 高野 裕

税務弘報50巻5号97頁(2002年5月号)

はじめに

  本件事例は合併という法律行為をなすことで法律上消滅した被合併会社と、合併により残った合併会社を、実質上一体として理解し、さらに税法上の規定による欠損金の繰戻制度を実質一体の会社として考え適用すべきかどうかという問題である。

T 事案の概要

1 事実

  H社は平成9年7月22日に10月1日を合併期日とする合併契約締結をe社と交わした。内容はH社が存続、e社は解散、合併期日にH社がe社の商号に変更(E社)するというものである。合併初年度の平成10年9月30日決算においてE社は欠損金約4億円の欠損事業年度となり、同年10月21日破産宣告を受けて破産法人となった。そこで、破産管財人である請求人Xは平成9年3月1日から平成9年9月30日までの被合併法人e社の還付所得事業年度の法人税約7千万円にたいしてE社の欠損金に基づきe社の税額を繰戻により還付請求する申告をなした。

2 請求人(X)の主張

  被合併法人e社は、株式上場のための技術的理由で合併法人H社と合併してE社としたが、実質はe社が休業中のH社を吸収合併した。H社は平成9年2月I社に印刷事業等の全部を営業譲渡し、資産負債は全くなかった。さらに、E社(民生用電気機器製造業)の破産理由は予想外の不渡手形によるものであった。

1. 実質課税の原則

 そもそも税法は実質課税の原則がとられている。実質課税の原則は欠損金の繰戻の場合にも税務行政の平等・公平の観点から当然適用されるべきものである。合併法人E社と被合併法人e社は「実質的な同一性が完全に維持されていることが明白」であるから、単に別法人であるなど形式にこだわって欠損金繰戻の適用をしないことは、実質課税の原則に反する。

2. 中間申告

  中間申告は合併後最初の事業年度において合併法人E社のみならず被合併法人e社も含めて計算することとなっている(法71条2項)。法は引当金、準備金等で被合併法人e社の計算を引き継ぐ規定がある。これらのことから、法は「人格承継説」をとっていると解されるので本件還付請求は「合併の目的及び実態等に照らして当然認められるべきもの」である。

3. 欠損金繰戻規定の趣旨

  法81条は、「各事業年度を通算して所得金額を算定する場合と比して、法人税の負担が過重になる場合が生ずることから、欠損金を生じた法人を救済するための規定」である。本合併は被合併法人e社と合併法人E社の間に「形式的に合併という行為が介在」してはいるが「実質的、同一性が完全に維持されている場合には、同一法人格が継続事業を行っている場合と何ら異なるところはない」から、本件の還付を認めることで「税負担の公平を図ることが、同条の趣旨に合致する」。

4.規定のないことについて

  以上の理由で形式的な規定が無いとする主張は失当である。

5.合併による納付義務規定の解釈

  通則法6条に「合併法人は、被合併法人の納税義務を承継する旨規定」されている。判例は「いまだ具体化されていない抽象的な納税義務をも承継すべきである」と判示(大阪高判昭和38年12月10日)。よって、合併法人E社は被合併法人e社のいまだに具体化していない「還付請求権をも当然承継する」と解される。

6.形式より実質

  e社とE社の間の「実質的な同一性」に言及せず「形式的な本件合併の事実のみを捉えて」いる処分は誤りである。

3 原処分庁(Y)の主張

1.e社とE社は別法人

合併契約によりe社は解散し消滅したため、e社とE社とは別の法人格を有す。

2.法の規定

  次の通り、合併の納税関係規定に定めのない事項はE社に一切影響を及ぼさない。(1)欠損金の繰戻規定は「法人格が異なる被合併法人の合併前の事業まで含むものでは」ない。(2)実質所得者課税の規定は収益がいずれの法人に帰属するかの規定で、これを根拠にE社の欠損金をe社の法人税額から繰り戻すと解釈はできない。(3)中間申告の規定は「法技術上、直前事業年度の確定法人税額という過去の事実に求めた」もので、e社の税額を基に計算することは「中間申告税額を合理的に算出するために定められた特例規定」である。(4)判例について,e社の事実関係をE社で生じた事実関係と同一視するものではないと解している。(5)法人税額が発生した段階で「必然的に」は還付請求権の発生はない。(6)Xの主張する規定は納税義務の承継に関するものではなく、E社がe社の法人税額を還付請求の対象とする特別の規定はない。

3.e社とH社の合併によりH社を存続させてE社とし、e社を解散消滅させたのであるからe社とE社が同一であるとする主張は「到底受け入れられるものではない」。

U 審判所の判断

<棄却・平成12年6月21日裁決、裁決事例集第59集191頁>

1.商法上の合併の効果は私法上のもの

  合併により存続法人が承継する権利義務は、「被合併法人の私法上の実質的な積極的、消極的財産であって、計算上の数額である資本や各種準備金、あるいは単なる経理計算関係などはこれに該当するものでは」ない。

2.公法上の権利義務の承継判断について

  公法上の権利義務の性質によって個別に検討されるべきものである。

3.計算関係にすぎない欠損金

  欠損金の繰戻が合併の効果として当然認められるものではなく、被合併法人に対する繰戻を認めるためには「別段の根拠」が必要。

4.税法上の建前

  私法上の合併につき、「税法固有の立場から個別的に明文規定を設け、その規定により処理することとしており、規定がない事項については、合併前の被合併法人限りで処理され、合併後の合併存続法人に影響を及ぼさない」。このため、被合併法人の税法上の所得金額の計算は、「合併の日にすべて遮断されるのが原則」である。

5.人格承継説

  引当金等の規定は「引き継ぐか否かは合併存続法人が任意に決定できることを前提として、引き継ぐ場合と引き継がない場合の計算上の規定を設けているにすぎず」、この規定をもって法が「私法上の権利義務のみならず、その計算関係をもすべて包括的に承継」すると解するのは相当でない。

6.欠損金の繰戻制度趣旨

  欠損金の繰戻制度は「法人が人格の同一性を保っていることを前提」とするものと解されるから、合併により解散した被合併法人の課税所得を対象として認めることはできない。

7.法人格の同一

  経営実態等からみて、直ちに法人格の同一であるということはできない。欠損金の繰戻規定適用の「前提として要求される会社の法人格の同一性が、実質的な同一性で足りる」とはいえない。

8.中間申告規定

  「合併により拡張するという経済活動の実態にかんがみて、被合併法人が存在していたならば、納付を要したはずの中間法人税額相当額を加味した税額を予定納税することが合理的であるとして特に設けられた」ものであって、本件還付請求の根拠足りえない。

9.通則法の納税義務承継規定

  「徴収されるべき国税の納税義務の履行が合併の日以降は不可能となることから、その徴税を確保するために、これを合併存続法人に承継させることを特に規定」したものであって、当然に被合併法人にも及ぶと解することは相当でない。

10.Xの根拠として掲げる規定について

  税法上の見地から「例外的に合併存続法人に引き継いだ場合又は選択により引き継いだ場合の税務上の計算方法を規定」したものであって、この規定をもって他の事項を「拡大解釈することは、立法趣旨から許されない」と解される。

11.結論

  本件請求は法81条に規定する要件をみたしていないから、Yの処分は適法である。

V 研究・・・裁決に賛成

1.はじめに

  本裁決は合併の場合に認められている欠損金の繰戻しによる還付事例である。ここで注意しておきたいことは、平成13年改正の組織再編成税制による欠損金の「繰越控除」についての新規定が気になるところではあるが、本裁決事例は欠損金の「繰戻し」の事例であって「繰越控除」の事例ではないことである。平成13年改正の組織再編成税制による欠損金の繰越控除は、原則として、「適格合併」の場合、被合併法人の合併前5年内の未処理欠損金額がある場合には、合併法人の欠損金とみなして計算できるというものである。しかし、この組織再編成税制においても「適格合併」による欠損金の「繰戻し」還付を規定してはいない。

2.繰戻し制度の沿革

  では、欠損金の繰戻・繰戻し制度についてその沿革を把握しておきたい。欠損金の繰越・繰戻し制度の沿革については野田秀三「欠損金の繰越制度」(日税研論集26号、1994年)107頁以下が詳しい。それによると、欠損金の繰越制度は明治32年(1899年)から存在していたが大きな影響を与えたものはシャープ勧告であった。シャープ勧告は無期限の欠損金繰越控除を勧告した。すなわち、「法人たると否とにかかわらず、納税者がある年度に欠損を生じた場合、この欠損を翌年度以降の損益計算において繰越して控除しうることとし、欠損額が所得で相殺されるまで繰越を継続するのである」(「シャウプ使節団日本税制勧告書―復元版」95頁、1979年、日本税理士会連合会)。さらに、今までになかった画期的な発想として欠損金の繰戻しによる法人税還付を勧告している。シャープ勧告によれば、「無制限な欠損繰越控除制度といえども、あらゆる場合に公平をもたらすには足りない。多くの事業は、完全に業務を廃止する直前には、多額の欠損の時期があり、かような場合には、税を控除しようにも将来の所得というものがないのである。更に、繰越欠損制度が納税者に与える恩恵は後になってからでなくては、あらわれて来ないのであって、すでにこの時には、欠損の生じた時とくらべれば、この制度の必要性は遙かに減少してしまっているのである。それ故に、われわれは、欠損の二年度繰戻を納税者に認めるように勧告する。欠損繰戻とは次の制度である。即ち、納税者は、前年度または前二年度分の申告書記載所得額から、当該年度の欠損金を差引き、その年度分または前二年度分の税額を改めて算出し、この税額を超えて実際納付した税額の差額の払戻しを請求するのである」(前出「シャウプ使節団日本税制勧告書―復元版」、95頁)。結局、この勧告を受け、欠損金の繰越控除については5年間、繰戻し還付請求については1年に限って認めることとなった。その後、欠損金の繰戻し制度は昭和59年から解散等一定の場合を除き制度適用停止の臨時措置がとられ、途中4年間の復活はあったものの現在に至るまで制度適用停止措置は継続している。なお、欠損金の繰越控除の5年間について諸外国では、アメリカ15年、イギリス・ドイツ無制限、フランス5年となっている(武田昌輔 税研2000.1.5「合併の場合の欠損金額の引継ぎ」14頁)。

3.繰戻し制度の不安定要素

  このように、欠損金の繰戻し制度は現在、制度適用停止に追い込まれてしまっているが、この理由について欠損金繰戻しの不安定要素として次のような説明がなされている。
第一として、「出自の外来性」すなわち、繰戻し還付制度は、シャウプ勧告によって外から移植された制度であること。第二は、「歴史の浅さ」で、繰戻し還付制度が導入された1950年は、わが国法人所得税採用から半世紀がたっていた。第三は、「還付に対する抵抗」で、繰越控除と異なり、繰戻しは実際に税金を納税者に還付する。「法人税が税収をあげるためのものであるという通念からすれば、たかだか一年に限った繰り戻しという形を取っているにせよ、税金を還付する措置に対しては、抵抗がはたらく」、等の理由により欠損金の繰戻しより「繰越制度への相対的支持を調達」したのではないか(増井良啓「租税属性の法人間移転」法学協会雑誌113号370頁)。

4. 消滅する被合併赤字法人の欠損金繰越控除判決について

  合併時の欠損金繰越控除についての議論は繰戻し還付においても有効なものである。そこで本裁決事例でも取り上げられている大阪高裁昭和38年12月10日判決(税務訴訟資料37号1173頁)の上級審である最高裁昭和43年5月2日判決(税務訴訟資料52号887頁)を確認しておきたい。
上記最判によれば、「欠損金額の繰越控除とは、いわば欠損金額の生じた事業年度と所得の申告をすべき年度との間における事業年度の障壁を取り払ってその成果を通算することにほかならない」として、「欠損金額の繰越控除は、それら事業年度の間に経理方法に一貫した同一性が継続維持されることを前提としてはじめて認めるのを妥当とされる性質のものなのであって、合併会社に被合併会社の経理関係全体がそのまま継続するものとは考えられない合併について、所論の特典の承継は否定せざるをえない」と説明する。更に、「合併会社とは無関係な経営のもとに生じた被合併会社の既往の欠損金額を合併によりこれと経営を異にする合併会社に承継利用させる合理的な理由は、通常の場合見出だしがたく、また被合併会社の欠損金額は、合併会社において受入資産の価額の定め方によって当然調整できるものであるから、普通には欠損金額の引継などを考慮する要もないのである」という。この結果、「結局、合併による欠損金額の引継、その繰越控除の特典の承継のごときは、立法政策上の問題というべく、それを合理化するような条件を定めて制定された特別な立法があって、はじめて認めうる」ものであると判じている。結局、合併時の欠損金繰越控除は立法無くしては認められないとする。この事例はいわゆる「逆さ合併」ではなく通常の合併である。

5.欠損金繰越控除について学説

  前記最高裁判決について、合併時の欠損金の繰越控除問題として多くの判例評釈がなされているが、木村弘之亮「繰越欠損金」(租税判例百選―第三版、有斐閣、90頁)によれば次のようにまとめることができよう。大きく説を分ければ立法政策説と繰越控除権説となる。まず、立法政策説の根拠について、(1)欠損金額のごときは企業会計上の観念的数額にすぎない。(2)特別規定がなければ、被合併法人の欠損金の繰越控除を引き継ぐことはできない。(3)合併に伴い、両会社における経理方法に一貫した同一性が断絶する。(4)欠損金の繰越控除は青色申告法人の特典と解され、その適用は課税原則の例外として制限的に解釈されるべきである。(5)互いに相手会社の資産内容を十分に調整し、すべての事柄を経済的に評価して、利害得失を考慮した上で合併条件を定め、合併契約を結ぶので、被合併会社の欠損金を合併会社において控除させる必要はない。(6)要するに、「欠損金の繰越控除の制度は、青色申告制度という租税手続法を前提とするので、単に合併に関する人格承継説という実体法上の議論だけでこの問題を解決しえない」、等と論じられる。一方繰越控除権説の根拠としては、「欠損金の繰越控除は、税負担の公平・平準化というすぐれて租税法原則に裏づけられた制度である。繰越控除は、その能否によって青色申告者たる納税義務書の具体的租税債務の消長をきたすから、法律により保護された利益(繰越控除権)である。この繰越控除権が、商法103条にいう権利に該当し、合併会社に承継される」として、商法上の繰越控除権説が説明される。さらに、「法人税法における合併の基本構造を人格の承継と理解すべき以上、実定法上たまたま個々の事項につき承継を許す明文の規定がない場合であっても、承継を否定する積極的な理由又は特別規定が存在しないかぎり、被合併会社について生じている諸種の財産および権利はすべて合併法人に自動的に承継される」として、第二の繰越控除権説が説明されている(木村弘之亮、前出、90頁)。

6.本裁決事例について

  まず、Xの主張については、実質的同一性を根底において論理的に主張していることが読みとれる。Xの論法は十分にまとめられており、わかりやすいものとなっている。審判所の判断はXの主張に対し、明確な論法でXの主張を順次論破している。その論法は法人格同一性を根底において明確に主張している。それは鮮やかといって良い。それも先の最高裁の理論を踏襲している。

7.問題の所在

  税法の問題は法律であるが故に常につきまとう問題を内存していると言っていい。すなわち、法の形式性と実質の乖離である。これは法が国民に適用されるため客観性と公平性を求められる。客観性は誰が見ても納得できる客観的な基準をいい、公平性は誰がみても納得できる公平な判断基準をいう。そのための判断基準はできるかぎり客観的な形式基準を採用する傾向が高まる。このように、客観的な形式基準にウエイトを置くことから今度は形式基準による形骸化の問題が発生する。形を見て実を見ない傾向が増えてくる。当初は実質に一番近い形式をもって判断基準とすることで実質を推し量る基準とされ、それはそれで当をえたものとして有効な判断基準となって評価されるのであるが、時代の変化と価値の変化により当初の価値基準が実体とかけ離れてしまう現象が起きてくる。そうなると、法の形骸化が始まる。その法を時代の価値基準に合わせて有効なものとするために法解釈という作業が必要となる。

8.本件裁決の判断点

  ところで、本件事例は合併という法律行為をなすことで法律上消滅した被合併会社と、合併により残った合併会社を、実質上一体として理解し、さらに税法上の規定による効果も実質一体の会社として考え適用すべきかどうかという問題である。
法はあくまで法の規定に基づいて判断するわけであるから、解散してしまった被合併e法人は解散により法人格を失うわけであり、そのe会社が合併により存続した合併法人H社と法人格が同一であるという議論は法律論としてはいささか無理があるものと考える。しかし、ここで本質論を重視するとすれば、本件事案は実体のあるe社が何も実体のないH社と合併することでH社の皮を借りて実体が乗り移ったことであり、そのH社の皮も商号変更してE社と代わることで実質がただ単に移動しただけ。単なる皮である法人形式は脱ぎ去ってしまったe社の皮については法人解散という手法で脱ぎ去った皮を処分したものである。そして、移り変わったH社の皮もE社と商号変更することで変化していったものである。この本質がe社からH社を経由してE社と移り変わって移動しているだけで、法的外見は違うが実質的本質は一貫したものであり、その本質が最終的に破産したことで税法の規定する欠損金の繰戻制度に該当することになったことを捉えて還付申告をしてきたものである。
確かに、本質はこのように法的外形を転々と移り変わってゆくものなのかもしれない。商売は環境の変化にいかに素早く的確に対応するかがポイントなれば法的形式はさておき実質的なものがどんどんと変化することが求められること当然の要請である。その本質はその通りだと理解できたとしても、次なる問題はいくら実質がそうだとしてもそれを認める、客観的な判断基準となる根拠条文が必要になる。なぜならば、法は根拠となる法によってのみ判断する基準を得ることができる。
しかしここで先の本質論からの構成が壁にぶつかることとなる。法的制約条件、すなわち法的根拠の不十分さが壁をうち破る十分な推進力をもたらしてくれないことによる行き詰まりである。このように考えてくると、結局現在の解釈においては本件事件について審判所の裁決は妥当なものと認識しうる。

9.あらたな展開への期待

  今までの議論は個々の法人を個別独立としてのみ捉えることで進んできたが、当初法が予定していた法人の実質が変化して現在は企業同士の契約的結びつきによる一体化が進み新たな実質が顕著になってきた。そこで昨今の企業組織再編成による、いわゆる組織再編成税制が法制化されるようになった。この組織再編成税制は今までにない観点で法人企業をとらえてその実質的同一性を把握できるものについては課税上の繰り延べを行おうというものである。
この組織再編成の観点からの規定が今まで整備されていなかったとして欠損金の繰越控除を例にして増井良啓「租税属性の法人間移転」(法学協会雑誌113号407頁)は指摘する。すなわち、黒字法人が赤字法人を吸収した場合、先の最高裁判所昭和43年5月2日判決民集22巻5号1067頁は、消滅する赤字法人の繰越欠損金は合併法人に承継されないとした。逆に、赤字法人が黒字法人を吸収合併する「さかさ合併」の場合には、合併法人は存続する赤字法人の繰越欠損金をそのまま利用できるものと説かれている。結果、「機能的には似た組織替えであっても、商法上の構成が異なると繰越欠損金が使えたり使えなかったりする」として、「日本の法人税法には企業組織の再編成に関する統一的な規定が欠けている」と述べる(増井良啓、前掲論文407頁)。
そこで、実質的な判断をする場合の統一的判断基準として「利益の継続性が認められる場合」すなわち「企業の投資の形式の変更がなされるにすぎず実質的な変更のない場合(no significant change)」の説明として「株式に対して株式が交付されるような場合に、利益の継続性が満たされる」とし、「合併において課税繰り延べが認められる趣旨は、このような投資家としての利益の継続性に求められているのである」とされている(水野忠恒「企業の合併・分割と税制」ジュリスト1104号121頁、1997年)。
このような、新たな法理論構築により組織再編成税制が平成13年の改正税制として具体化されてきたが、この具体化された税制に対し、「これほどまでに、要件を厳格にする必要が存するのかどうかは疑問が残る。私見としては、被合併法人の欠損金を引き継ぐことを原則として、その行為が租税回避を目的としたもの(つまり、合併により欠損金を活用することのみを目的とする合併)であれば、これを認めないという方式とすべきであって、形式的基準を多く設けているところからは、実態に即応しない場合も生ずるのではないか」(武田昌輔 税研2000.1.5「合併の場合の欠損金額の引継ぎ」17頁)との指摘も出ている。

おわりに

  本件事例は欠損金の繰戻還付という限定された条件下での問題ではあるが、たとえ還付というなじみにくい運用であったとしても、景気の動向などにより制度適用停止となるなど「たやすく租税政策面から譲歩することは許されるべきではない」(成道秀雄「欠損金の繰戻制度」日税研論集26号162頁)との感慨を持つテーマであった。なお、本件裁決の結論には賛成するものである。

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