「我が家のイベント 1」

 ――明日が楽しみだ―― 

高野 裕

 

1. 9月11日(水曜)は        

今日、9月11日(水曜日)は特別の日である。
何が特別かというと
ニューヨークの貿易センタービル旅客機激突事件のことではない
我が家の息子、高校2年生の長男の誕生日なのである
昨年、貿易センタービル旅客機激突テロ事件発生の時
我が家の息子はわめいた
「よりによって、俺の誕生日に事件を起こすなよナー」と、
これで彼の誕生日はおよそ100年間
しめやかにミサの響きでつつまれることになった

そう、我が家の長男の誕生日なのである
であるのだが、ここのところ我が家の家内が忙しい
あまりに忙しすぎて、なんと、大事な誕生日にいない
夕飯を一緒に食べることもできないのである
そして、私も予定が入っていた

ここ一週間の我が家の夕食はどうなっているか
悲惨である
私は原稿締め切りに追い回され
家内は出張が重なって不在日が多い
結局、息子は毎晩外食である
家族で外食である
息子は言う「また外に行くのかヨーーー」

誕生日には家族そろってレストラン
なんとなく美しい響きであるが
これは我が家には当てはまらない
できれば誕生日くらい「我が家で食事」と言いたい

 

2. 9月9日(前々日) レストランにて

そんな話を月曜日レストランで食事をしながら話したら
ケーキを作ろうと息子が言い出した
「よし、そうしよう」と私が答えた
そうしてやりたいと思った

言ってしまった
後で考えたら大変なことであった
まず私のスケジュールを調整した
調整すればするほど後にしわ寄せが来るのだが調整した
息子にイヤな思い出を作らせたくなかった
イベントをしてやりたかった

家内が言った
「それじゃパパが誕生日の日は面倒見てくれるのね」
いつのまにか全面的に私がまかることになってしまっている
いつものパターンが始まった

「ま、何とかなるわぃ」と思った
そこで私の秘策を説明した
「ケーキといっても色々あるだろぅ」
「ホットケーキだってケーキだろ」
「エェーー、ホットケーキにするのォ」
ヤツは続けていう
「だけど、やはり生クリームの上に名前が書いてあるやつがいい」
ヤツはそう言ってのける
「じゃ、ホットケーキを段重ねにして間にフルーツと生クリームで作ればいい」
さらに秘策を発展させて提案した
オーブンで焼くなどというと大がかりになる
フライパンでヤルなら何とか無難に処理できそうだと思った

「えぇーー、やはりキチンと作ろうよ」
彼としては、あくまで本格派を主張する
家内は「スポンジケーキがなかなかキチンと膨らまないのよネーー」
だんだん大がかりになってきた
私としては、なるべく簡単に対応してパーティーを終わらせたあとで
残っている原稿書きに取りかかりたいと思っていた

その日は、レストランの帰り
スーパーによってケーキの材料を購入して帰った


3. 9月10日(前日) 自宅にて   

翌日、すなわち昨日のことである
やはり、外食である
家内は残業するからあなたはどうするのと聞く
私も処理したい仕事もあったが
家内が忙しいのを知っているから
「おれが家に帰って何とかするよ」と答えてしまった
「じゃ、早く帰って何とかしてやってよ」とせかされる
結局、息子と二人でラーメン屋さんに出かけた

食べ終わって帰ってから家で話をしていたら
明日の夕飯、どうするのかという話になった
ケーキを作ることは決まったが夕飯は特別考えていなかった
どんぶりものでも作れば良いんだろうと話ていたら
息子は言ってのけた
ケーキは自分が作るから、お父さんは夕飯を考えてよと
結局そういうことになってしまった

そういえば、さっき、書斎の机の上にケーキ作り方の本が出ていた
家内がチェックしていたのかなと思ったが
どうも息子がチェックしていたらしい

急に息子はケーキを作る準備に取りかかった

ボールに粉を入れ牛乳を混ぜてホイップしはじめた

では、私は明日何を作ろうかと料理の本を見始めた
どうせ作るなら前の日から準備をするようなものがいいなと思った
色々見ていたらパスタが気になりはじめた

手作りパスタの説明を読み始めた
生地を作って2−3時間寝かせるか
前日に作って冷蔵庫に入れておいても良いと書いてある

そうだ、今日、生地を作っておいて明日、手作りパスタを作ってみよう

 

4. 9月10日(前日) パスタの生地 

私も動き出した
ボールに「強力粉」を200グラム入れると書いてある
メリケン粉、小麦粉のことだと思った

あちこち探したが「強力粉」なるものが見つからない
やっと探したものが「薄力粉」
「強い」と「薄い」では違うのであろうか心配になった

「強い」粉ではないらしいからパスタがボソボソと切れてしまうのかもしれない
しかし、他にそれらしいものがないからと腹を決めた

玉子2個、これは問題ない
オリーブオイル大さじ1杯

オリーブオイルは「バージンオイル」なるものがあったのでこれで良かろうと決めた

ボールに粉を200グラムとなっている
困ってしまった、どうやって200グラム計ればいいのか
見回したがはかりが見あたらない
体重計では駄目だろうと思った
どうしようと気になった

袋を見たら900グラム入りと書いてある
ということは900グラム入りの袋の内、およそ20%ほどを入れればいいと目安を
付けた
適当である
こんなもんかナ、ってぐあいに、エイヤーと入れた

玉子2個を割って入れた
オリーブオイルも適当に入れた

回りから粉をかけるように恐る恐る混ぜはじめた

心配になってきた
卵を割って入れたが
黄身を箸か何かでくずしておいた方が良かったのであろうか
そうだ
玉子は玉子掛けご飯の時のように
先に別のお椀で混ぜておくべきだったろうか
不安になってきた
しかし、ま、いいか、やっちゃえ
ってことでドンドン混ぜはじめた

粉がかたまりはじめた
手のひらで何回もこねてみた
伸ばしては押しつけ
それをまた玉にしては伸ばし
手のひらで、ボールの中で繰り返した

こんなことをしなくても良いのかもしれない
また不安になってきた
本を読んだが「なめらかになるまで混ぜる」としか書いてない
わかんないことだらけ
ま、やっちゃえ、ってことで手でこねてみた
そろっと良いだろうてことで
サランラップにくるんで冷蔵庫に入れた

さー、明日が楽しみだ

2002年9月11日記

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