太郎冠者やが出てきて舞台上で
「くっさめ、くっさめ」などと言う
そんな狂言の場面をごらんになられた方もおいでだと思う
「嚔」難しい字だ、普通は「クシャミ」とカタカナで書くことが多い
「クシャミ」を辞書で引くと
「鼻の粘膜が刺激されて起こる、発作的に激しく息を吐き出す生理現象。」
そして「くさめ」の転とでてくる
ところで、私の鼻がむずむずしてくる
すると、あらゆる思考がフリーズ、凍結され
身体の動きもすべて、このくさめのために総動員される
頭は徐々に持ち上がり、両手はいくらか身体から離されて
手の指は徐々に広がり
そして、背筋が伸びてゆく
身体全体が徐々に大きく大きくなって行く
そして、次の瞬間
ため込まれたエネルギーを一気に吐き出すがごとく
そして身体の中にあるあらゆるマイナスの汚物を体外に放出するがごとく
一気にエネルギーが放出される
その際、勢いを付けるために気合いも一緒に入るのだ
そのかけ声は人によってまちまちだ
「ハックション」
「ヒェークション」
「フェーークション」
「ヘークション」
「ホォーーーォォクション」
ま、いろいろなのだが、これが一回だけならそれで問題はない
ところが、最近我が家でおかしな現象が起きている
何を間違ったか、春先に私が二回三回と立て続けにクシャミをすると
ちょっと様子が違ってくるのだ
★
まず、クシャミを終えて虚脱状態になった自分には
自分の回りの状況を察知するエネルギーさえも
いまほどのクシャミと一緒に放り出してしまったようになる
だが、そんなスキだらけの自分に向かって
なにか不気味なエネルギーが近寄ってくるのを感じ始める
とっさになけなしのエネルギーを集めて身構える
「フフフ」というような含み笑いとともにそいつはやってくる
そして、その薄気味悪い笑いは
何というのか、悪の教壇に引きずり込まれたような
そして、その教壇の教主が
「あなたも我々の仲間ね、もう逃げられないわよ」というような
そう、その瞬間、寒気のようなものを感じるのだ
一気に私はそのアリ地獄のようなところから逃げだそうとして
「違う違う、単なるクシャミだ、クシャミ」と主張するがむなしさが走る
その教壇の教主は自らもティッシュを片手に目を真っ赤にしながら
しかし、仲間が増えたという確信を持って
余裕で含み笑いをする
クシャミをしたくなるのは自然のなせる技
しかし、私はクシャミをしたくなるときの放心状態は
ある意味で恍惚の状況に近いのだが
その先の黒魔術教壇の含み笑いを思い出すと
必死でクシャミを打ち消そうとエネルギーを使い果たし
つらい状況が発生する
イライラする、まったくクシャミのおかげでイライラする
「クソー」と思う
まさに「くさめ」はイライラするところから起きた言葉であろうかなどと勝手に思い始めている
春うららかな気候に反して、最近はイライラが増えているが
しかし、こんなことを考えているなって幸せなのかもしれない