産業空洞化と雇用問題

高野 裕


目次

1 はじめに

2 最近の経済情勢

3 課題と処方箋

4 産業空洞化への対応

5 産業空洞化とは

6 産業空洞化の影響

7 おわりに

参考文献


1 はじめに

 近年、「産業の空洞化」という言葉を耳にするようになってきた。「産業の空洞化」は国内産業が海外へ転出することにより国内の産業が空洞化することをとらえた言葉である。この問題は、単に国内産業の衰退という問題ではなく、日本企業が海外へ転出することにより国際企業としての真価が問われるということ、すなわち企業の国際化とその現地での問題、特に労使紛争の問題にどう対処すべきかという問題を内存したテーマである。そこで、本稿においては「産業の空洞化」の原因と実体を捉え、それらを通じて雇用問題を検討する素材を提供してみたいと考えている。

2 最近の経済情勢

最近の経済情勢は、@製造業の海外直接投資・海外現地生産の進展による産業の「空洞化」への懸念と新たな成長分野への渇望が課題となっている。さらに、A産業間の生産性・効率性の格差、内外価格差の存在という国内市場の問題、B公的規制や民間取引慣行が経済社会の硬直性を強め、企業のビジネスチャンスの拡大を阻害したり、生産性の上昇や内外価格差の是正の足かせとなっているのではないかという疑問が湧いてきている。これらが景気低迷長期化の影響により、日本経済の長期的・構造的な課題が顕在化してきたことが、企業における閉塞感と将来への不透明感を生じさせている

3 課題と処方箋

 このような経済環境の中にあって日本経済はどのような課題と処方箋が考えられるかと考えて見れば、まず最初の処方箋として、@企業の事業再構築(リストラクチュアリング)を積極的に押し進ることである。それは、設備投資と企業収益の現状を考え、バブル期の企業内高コスト体質をいかに解消するかというテーマである。そして、事業再構築の動向は国内投資の収益性をいかに確保するかということから、コスト引き下げ、親企業の分散化、自社製品の高級化、新製品の開発、事業転換等に及ぶと考えられる。次の処方箋としては、A円高と海外現地生産の進展である。まず海外直接投資・海外現地生産の動向は、コスト面で有利でかつドル経済圏でもあるアジアでの生産に移行する。さらに、海外現地生産の進展による「空洞化」懸念とその対応について考える。まず経済成長の源泉ともいうべき技術基盤が弱まり雇用機会が減少するのではないか、雇用への影響や技術への影響、そして国際分業の進展と産業構造の変化が起きることへの懸念が予想される。そこでは産業の構造調整と「空洞化」への対応を要求される。

4 産業空洞化への対応

 「空洞化」への対応としては、@産業の新たなフロンティアの開拓と既存産業の再構築に資するような規制緩和の推進、技術開発の推進と基盤の整備。A円高差益の速やかな還元、内外価格差の是正を推進するような規制緩和の推進、取引慣行の見直し、等を進め、内需主導型の国際調和型産業の形成を図ってゆくことである。

5 産業空洞化とは

 産業の空洞化とはどのような現象をいうのであうか。まずその空洞化発生ルートについてまとめてみた。

 @円高により輸出減少となり製造業縮小するパターン。例えば自動車・電機産業である。A輸入増大することにより国内生産を輸入に代替させてしまうパターン。例えば衣類・事務用機器である。B海外生産直接投資が増大することにより国内生産国内投資を代替するパターン。例えば中国・東南アジアに対するものである。

 産業空洞化が進むと企業の海外投資が増加する。そうすると投資国の所得増加する。これにより日本で生産する高付加価値製品需要が増加するし、逆輸入により低価格品を消費するようになる。このように一層産業空洞化が進むこととなる。

 以上の産業空洞化が進む道をみてきたが、その対応策としては新規市場を積極開拓するベンチャー企業の活躍できる場を広げることにあるといえる。しかし、規制の多い日本でどれだけベンチャー企業が育つかがカギとなろう。

6 産業空洞化の影響

 では産業空洞化が進むことにより雇用問題にどのような影響をもたらすであろうか。まず産業構造の変化に伴い労働者が成長産業へ転職する場合には、一時的にせよ失業が発生すると考えられる。さらに空洞化の進展により合理化が進み設備の縮小撤退、工場の海外移転、そして希望退職の募集や関連会社への出向、新規採用の抑制など雇用調整が進むこととなる。まさにこのような現象が顕著となればこれこそ産業、すなわち「製造業の空洞化」としての問題である。

7 おわりに

 産業の空洞化は確実に進展していると考えられる。空洞化が進むとその影響は企業の盛衰に関わってきて、結局雇用環境に跳ね返ってくる。問題の最後の帰着点は結局雇用問題に影響を与えることを考えると、今後も「産業空洞化」問題に注目してゆかねばならない。


参考文献

  • 「1995年ジェトロ白書・投資編」日本貿易振興会刊
  • 「平成7年版経済白書」通商産業省刊
  • 「日本経済の課題と処方箋」経済企画庁刊
  • 「日経大予測’96」日本経済新聞社刊
  • 「経済データ’96」日本経済新聞社刊
  • 川北真史「活性化するアジアでの生産の現状と問題」総研展望1994年7月号21頁
  • 堀内孝男「国際分業化が進む製造業」企業診断95年10号44頁
  • 小川惟悦「もう一つの空洞化 ー 外資がTOKYOから逃げていく!」ビジネスデータ1995年8月号22頁
  • 板東輝夫「円高とアジアに揺れる産地企業」保険公庫月報1995年3月号48頁
  • 安部忠彦「海外シフト進展でも技術弱体化は防げる」東洋経済統計月報1995年6月号4頁
  • 山下東子「円高で加速する構造改革」国民経済研究協会「産業動向」’94年8月号4頁
  • 「堤富男インタビュー21世紀ニッポンへの提言」財界1995年3月28日号18頁
  • 「企業倒産 中小零細企業を中心に急増の可能性」エコノミスト’95年5月8日号36頁
  • 「日下公人講演 価格破壊と人事破壊」DKMマネジメント54頁
  • 「製造業の空洞化 当面の課題は国内の失業問題」エコノミスト’95年5月8日号56頁
  • 「空洞化で250万人の雇用喪失」週間東洋経済1995年9月16日号28頁
  • 金谷貞夫「地場産業の空洞化とリストラ戦略」近代企業リサーチ’94年3月10日号42頁

平成7年11月作成


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Last Updated: 4/22/96
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