住 専 問 題高野 裕 もくじ住専問題の概要経緯住専問題は戦後日本経済の末期症状として世紀末の日本に現れた問題である。 日本経済を根底から能動的に支えていた金融機関がいつの間にか保身的に機能し、自らの崩壊を招いた現象であり、さらに大局的に見れば、日本経済の発展期に確立されてきた土地本位制による担保貸し制度と、日本を世界の日本に仕立てた大蔵省を中心とする官僚機構の肥大化した仕組みのなかで、日本の経済システムが内部から崩壊している様を露呈したものと見ることができる。 住専問題の発端は、官僚指導で大手金融機関により住宅専門金融機関として設立された住専がバブル経済期に大手金融機関に市場を奪われて不動産関連企業に貸付を急拡大したことにある。 住専問題の具現化は、バブル崩壊による不動産市況の悪化に伴って巨額な不良債権として現れた。さらに農協系金融機関からの大量の資金流入によって支えられてきた住専そのものの危機が、農協系金融機関への被害拡大として現実のものとなってきた。その上、現段階においては、日本の金融機関に対する海外からの不信として問題が拡大し始めている。 対策この、住専問題は再建絶望といわれている。最大の対策は住専の「整理」をいかにうまく軟着陸させるかにある。さらに住専もしくは農協系金融機関への公的資金導入が最終的な焦点と考えられている。 今後の課題今後の課題として取りざたされている点は以下の問題である
危機管理危機管理の概要危機管理の分類としては次の3つがある。
そして、危機管理の究極はセルフディフェンス(自己防衛)にある。常に次の危機に備えることである。 危機管理のサイクル危機管理には次のサイクルがあるといわれている。すなわち@危機の発見、A危機対応、B危機からの回復、C対応評価、D事前対応。これらのサイクルのどの時点で問題が発生したのかを把握することにより危機管理がなされることとなる。 危機情報危機管理に一番大切なことは危機情報の把握である。すなわちモニタリングにより平時の情報を正確に監視することであるといえる。さらに、トップダウンによる素早い行動である。危機が発生した場合は日常伝達ルートでは対応が遅くなる。とにかく危機情報の第一報はトップへいかに早く的確に伝えるかがÎß²ÝÄとなる。そこで、最近は企業内のコンピュータ化がすすみLANシステムが充実してきていることを考えると電子メールの活用などが今後の危機情報把握システムには有効であるかもしれない。 以上、参考文献「週刊エコノミスト臨時増刊5月8日号」1995年 日本的組織の特徴特徴日本的組織の特徴を考えた場合、まず一番に「閉鎖的労使慣行」が上げられる。これは終身雇用・年功賃金を前提とするものである。次に「先行投資型財務体質」である。これは労働分配率と株式配当を低く抑えて内部留保を厚くすることにより、先行投資を優先させる財務体質にある。最後は「集団的意志決定方式」である。これは権限を分散して雰囲気で意志決定を行う根回し主義となって現れる。以上三つの日本的組織は、日本が世界の日本となるまでの強力な原動力となってきた。しかし「1987年頃からはじまった『バブル景気』は、こうした日本的経営が生み出した究極的な虚像だった。官僚主導の下で、円高差益を社内利益に取り組み、猛烈な先行投資志向で土地や株式を買収し、新株やワラント債の発行で低金利資金を集めて膨大な設備投資を行った。そしてそこには、高値をいとわぬ企業の交際費や旅費宣伝費の支出を前提とした需要の伸びも期待されていたし、『みんながやっているから安心だ』という集団主義的発想もあった、日本経済は無限に成長し、土地と株は必ず値上がりし、個人消費は確実に増え、コストは必ず価格に転嫁できるはずだった」(堺屋太一「組織の盛衰」274頁より)。こうして、現在の日本を築き上げた日本的組織の特徴が、バブル崩壊とともに日本的組織の変革を企業の生き残りをかけて迫られることとなった。 改善策企業はいままでの日本的組織による経営から脱却するために新しい試みを始めている。@三比主義からの脱却。これは前年比・他社比・予算比という三つの対比によるデータ分析に頼った経営判断に偏りすぎたことを反省し、新しい視点による経営を模索することである。A「価格−利益=コスト」の発想。これは「利益=価格−コスト」という従来の発想、すなわち「なった」コストから価格が低下してくる状況でのコストの見直しとして「する」コストが求められている。B「利益質」の提言。これは、いままで「利益額」に比重が置かれていたが、これからは「利益質」として外延性・継続性・好感度等の「利益質」に注目されることである。Cヒューマンウェア(対人技術)の確立。これからはハードウェアーからソフトウェアー、そしてヒューマンウェアーへと価値観を変化させなければならない。D経営の理念の確立。これこそがいままでの日本的組織から脱却して新しい環境で生き残るためのキーである。 まとめ住専問題は戦後日本経済を発展させてきた日本的経営組織の変革期における過渡的状況に発生した問題である。いままでの価値観を否定して新しい価値観へと体質変換が求められているなかで、旧来の体質にどっぷりと浸かってしまった金融機関と官僚組織が旧来の枠のなかで考える保身的行動のなかから発生した問題であると理解できる。 また、視点を変えてみたならば「人」の二面性の問題としても捉えられる。人は個人としてはおとなしいが、組織のなかの一員となった場合には組織の理論が優先して「個」の意志ではなく「全体」としての意志で動こうとする。組織の行動は、組織のいままでの行動の延長線上で行動を考え組織を保全する組織の自己防衛的思考が優先される。組織を変革するような行動を排除する力が組織自身のなかから生まれ、組織そのものの自己増殖活動と組織の自己防衛活動が優先される。この自己増殖活動により肥大化した組織は自己防衛活動により自己変革をも飲み込んでしまい、ついには内部矛盾を生じて組織内部から崩壊し始めることとなる。この場合、組織内の個人レベルの意識が高い場合は常に複数の違った意識を持った個人により組織の内部矛盾を改善させる力を持っている。個人は組織内部において変革者となりうる。組織そのものの保守性と個人の変革性のバランスがとれたとき、組織は健全な姿となる。 現状を肯定しようとし、現在の「である」状態を求めようとすれば組織「らしく」なろうとし、組織は変革を否定する保守性が優先される。これに対して、個人が目標を持って「する」状態が実現できるのであれば、変革を推進する革新性が優先される。この全体組織と個人のバランスのある組織体が理想となる。 しかし、いままでの日本的組織では個人より組織が優先されてきた。「組織価値が上がれば個人価値も上がる」として考えられてきたが、これからは「個人価値が上がれば組織価値も上がる」として個人の個性を大切にした、「する」個人の育成が大きなウエイトを占める。 「である」組織は常に変革を企画しないと内部崩壊がはじまる。組織の変革を成し得るものは、変革者としての「する」個人が組織内部に常に存在しうることである。 参考文献 丸山真男「日本の思想」154頁以下
平成7年9月作成
Last Updated: 4/22/96 WebMaster: Hiroki Takano 高野 裕 takano@tmc.nagaoka.niigata.jp © copyright 1996 the TMC 高野 裕 |