「私と帽子」

税理士 高野裕

 私はもう何年になるだろうか、そう20年くらい前から、とにかく外出するときは必ず帽子をかぶっている。昔ロンドンに遊んだとき、いたずらに買ったことが始まりだ。帽子といってもキャップではなく、回りにつばのあるハットだ。ハットの中でも夏はパナマ、冬はソフトを愛用している。
  だれでもキチンと帽子を被れば絵になる。いわば「馬子にも衣装」だ。初めて帽子をかぶる時、チョットだけ勇気がいる。まず朝、帽子を被っていこうと思う、玄関を出て10メートルほど歩き出す、そこで何となく人目が気になる。たいていの人はここで自宅にUターン、もう被れません。この10メートルを突破すれば大丈夫。今度は通りのウインドウに写る自分の姿が気になって帽子に手が伸びる。キチンとした帽子をキチンと被れば、だれでも帽子は似合いますよ、「馬子にも衣装」ですよ。
  クールビズと言われてノーネクタイが話題となっている。しかし、結婚式などフォーマルな時はキチンとした正装をするとピシッと決まる。それと同じで夏なら麻のスーツを着てパナマ帽を被ってこそ紳士というイメージ。冬ならコートを着てソフト帽を被ってようやく落ち着く。逆にコートを着て帽子を被らないなんて、まるでふたの付いていないペットボトルのようなモノだ。戦前の記録映画など見れば全ての人が必ず帽子を被っていた。逆に帽子を被らない方がおかしかった。
帽子は流行モノではなく歴史と伝統の中にある。だからキチンとした帽子職人がいる。ソフト帽とはウサギの毛を帽子の型に吹き付けて固めたモノで手触りがよく、冬用の帽子だ。夏用にはパナマといわれ、天然の草を編んで作ったものだ。最近テレビなどでタレントがたまにハットを被って出るが、つばを全て上に上げたままで被っている。絵にならない。前のつばを下げて被った方が上品でスマートに見える。
ところで、雨が降ってくると人は言う。あなたは帽子を被っているから傘が無くても大丈夫ですねと。違う。私は雨が降ってくると帽子を取って上着の下に隠し、帽子が雨に濡れないようにする。帽子は雨に弱い。雨に当たった帽子は型が崩れてしまう。そんなときに私は冗談を言う。「雨の時は雨用の帽子があるのですよ、ハイ。冬はソフト帽、夏はパナマ帽、雨の時はレイン帽(虹)、ハイ、ハイ。」なかなかこのジョークは通じないようだ。(私の帽子HPをご覧下さい、http://tmc.nagaoka.niigata.jp)

「月刊税理2005年9月号 税理士の休日」(ぎょうせい刊)掲載原稿

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