サックス事始め 幻の演奏会 下編

高野裕

2003年12月29日 柏報掲載

幻(まぼろし)となった演奏会
クリスマスイブのパーティーで
本当は夜中でも演奏会を開始したかった
しかし、よそ様のご自宅で
どこかの森の中の別荘ならいざ知らず
街中のご自宅だから隣近所に迷惑をかけるわけにはいかない
結局、演奏会をやろうとは私から言えなかった

翌日、家内に相談した
「おい、今度の日曜でも自宅で演奏会を開こうよ」と
「そうね」と返事が返ってきた
よし、演奏会をやはりやろうと思った

その日は12月最後のサックスの練習日だ
夜、練習教室に行った
先生から質問があった
「演奏会どうでしたか」と
ちゅうちょした
「ハァ、おかげさまで・・・」
「そうですか、それはよかったですね」
なんとなく下を向いてしまった

練習が始まった
ようやくきちんとした基本練習のようだ
先生が言う
「何か、音が漏れていますね」
「ちょっと貸してみてください」
先生が私の中国製の楽器をチェックし始めた
私は言う
「なんせ、一番安いやつを買ったもので」
「いやいや、中国製でもマスターがしっかりしているから大丈夫ですよ」
「そうですか」
私はうれしくなった、そう見捨てたものじゃなさそうだ、この楽器も

先生が演奏し始めたら
「これはやはり漏れてますね」
「すぐ修理に出した方がいいですよ」
「保証書があったでしょ、すぐ修理してもらってください」
先生が今すぐお店の人に言いなさいと言うことで
私の楽器はそのまま修理に出すことになってしまった
また私の手元には楽器が無くなってしまった

家に帰って家内に事の次第を話したら
笑い話となってしまった
結局 幻(まぼろし)の演奏会となってしまった
家内は言う
「パパのサックス聞いてみたかったなぁ」と

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