悪魔に取り憑かれたプリンセス

朝までウインブルドン観戦

柏報2003.6.26掲載 高野裕

寝不足です
ウインブルドンを朝までみてしまいました
引き込まれてしまいました
すごい試合でした
選手が試合中に泣き出してしまいました


Daniela Hantuchova (Slovakia) v. Shinobu Asagoe (Japan)

http://championships.wimbledon.org/en_GB/scores/stats/day3/2084ms.html

女子世界ランキング80位くらいの浅越選手が世界9位の選手に勝った試合です
最初のセットはストレートで取られてしまいました
相手は背の高い、足の長い、スリムな体で、プライドの高い選手です
どんどん自分のペースで試合を進めてゆく
ポイントを取る毎に、何もなかったかのように、当たり前であるかのように
庶民は当然私に敬意を払うものなのよというような女王様の雰囲気で
アナウンサーも「なにか気品の漂うプレイです」と言わしめた選手でした
片や、一方的にポイントを取られてゆく日本の浅越選手
あれよあれよという間に6−0で1セット終了
やはり世界9位と80位では実力が違うと思って
それでも何とか頑張ってとみていました
本人の顔は「どうしたのだろう、私、何しているのだろう」というような
そう、解説の伊達選手が言っていた「頭の中が真っ白になっているのでは」と

第2セットも危なっかしい、しかし、少しずつ元気のいいショットがでてきた
さっきとは比べものにならないショットが出始める
思いっきりの良いショット、ファーストサーブも入っている
だんだん良くなってきた
こんなショットが打てる選手だったのかと、先ほどのセットでは考えられない
ついに第2セットをものにした、やった

そっからがたいへん
気品高い、気位の高そうな相手選手
第3セットはファーストサーブが入らない
凡ミスが増える
だんだん落ち込んでくる
方や、浅越選手、すごい活き活きしてくる、声も出てくる
解説の伊達選手はしきりに言う、弱気になったら負け、攻めてゆけばいい
気後れしたら負け、ここでは大事なポイント、リスクを犯してでも攻めてゆけばいい
そう、浅越選手のアップ画像を見ると
あまり感情を表さないが気持ちだけで勝負していると思われる
さすが世界の大舞台、気持ちで勝負がついてしまうのかと
そうだよな、気持ちだよな、気持ちが引いたら負けだよなと納得する
それに比べて相手選手
どんどん自滅してゆく
気品のある顔がゆがみはじめる
プレッシャーがかかればかかるほど
顔がどんどん曇ってゆく
チャンスだとアナウンサーが叫ぶ
しかし、そんなとき、浅越選手がミスる
大事なポイントがとれないで浅越選手がミスる
「それ見なさい、私はあなたなんかに負けないのよ」と相手は突っ張る
浅越選手は淡々と試合を進める
しかし、また相手選手は凡ミスをする
ついにコート上で気品あるあの顔が
完全に相手を恨む悪魔の顔になる
悪魔に取り憑かれたプリンセスのようだ
またミスる
今度は口がゆがむ、カメラが画面いっぱいに彼女の顔を映し出す
大きく見開いた目には涙があふれ出てくる
その眼孔はネットの向こうにいる浅越選手をにらみ付けている
口は大きくへん曲がっている
大声を出して泣き出しそう
しかし、必死で我慢して涙をそっと拭う
コートチェンジの時は客席にいるコーチに向かって何か泣き言を言っている
画面にはすぐにコーチの姿が映るが、コーチは選手から目をそらす
目を合わせないようにしている

このチャンスに浅越選手がとれない、チャンスをものにできない
やはり実力の差なのか
完全に相手はボロボロなのに取れない
2ゲーム連続して取らなければ勝てない
何度かマッチポイントを握られながらも切り抜けるが
自分が2ゲーム先取できない
やっと勝てたときには
私も拍手
ふと窓の外を見たら明るい
時間は朝の5時ころ、オイオイ、これは大変だ
あわてて布団に潜り込む

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