(長岡商工会議所会報平成12年掲載原稿)

自分自身を引き出す

(株)タカノマネージメントコンサルタント

代表取締役 高野 裕

感情の筋肉

 人間の感情には筋肉がある。感情の筋肉は、使ってやらないとだんだん硬くなり、自分の感情を表せない無表情人間になってしまう。この筋肉をほぐすためには、普段から笑ってみたり怒ってみたり、泣いたりと色々やってみることが必要だ。このようにプロの演出家は教えてくれた。

 演劇には全く縁の無かった私が昨年からリリックホールの野外劇に参加している。キッカケはたまたま見たチラシに、「未経験者歓迎」という文字を見たからである。

見た目ではない

  演劇二年目の今年も参加した。参加者は総勢60人。学校の先生、市役所職員、大学生、高校生、会社員、主婦などいろんな職業の人が集まった。そんな仲間と練習を進めて行くうちに見ていて思った。普段は大人しそうだけれど結構みんな個性豊かなのだと。私の言う個性豊とは派手さを言うのではない。見た目の派手さではなく、その人の「自分の道」とでもいおうか「味」とでもいおうか、その人の、もって生まれた「その人らしさ」である。無口な人もいる。明るい人もいる。気弱な人もいる。そんな一人一人の性格が個性である。それらの個性はその人の味である。演出家はこの各自の持ち味をうまくつかんで配役を決めて行く。配役によって、更にその人の持ち味に磨きが掛かって行く。

技より素朴さ

市民を対象に行うリリック野外劇はベテランを集めて俳優を養成するために行うものではない。一人でも多くの市民に参加してもらい、演劇を演ずることから演劇に馴染んでもらえる環境を作って行くところに狙いがあると私は理解している。そのため演出家は単にベテランに配役を割り振ることより、参加メンバーの個性を把握して配役を決めて行く。

配役が割り振られて練習をしてみるとよくわかる。演劇は、技術も大切かもしれないが、テクニカルなものを熟知しているベテランであることより、そのようなベテランにはない素朴な味、個性、味のある「人」そのものをどれだけ前面に出せるかということの方が、劇全体の雰囲気に大きな影響を与える。演劇の経験者であるとか無いとかというような問題ではなく、その人がもっている個性そのものがポイントなのだ。

個から全体へ

各自の個性を明確に表に出せると芝居全体の味がより明確になる。中途半端な味の役者より、個性豊かな味のある役者が一人でもいると、それを受けた相手役の個性も明確になってくる。相手を受けて自分の味が明確になる。それが全体へと広がって行くことで交響曲のように調和のとれた深みのあるものへと広がって行く。全体が良くなるためには、まず各自の個性を明確にして行くことからはじまる。

自分自身を引き出す

これからは個性の時代だという。しかし個性はすぐに育つものではない。最初はまず自分を知ることからはじめる。もし、あなたが自分の個性をもっと明確にしてこれからの時代を生き抜きたいと思うのであれば、私は推薦したい、演劇に挑戦されることを。演劇が自分の中にある未知の自分を引き出してくれる。自分の個性を見つけてくれる。演劇が自分自身を引き出してくれる。これ、私のおすすめである。

今年7月に上演されたリリック野外劇シェークスピア原作「じゃじゃ馬ならし」の一場面より(写真中央は筆者)
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