リリック野外劇 −演劇をとおして伝えたいこと−連載

リリックのセンターコート

 高野 裕

   グランドスラムといわれる世界四大テニス大会の中でも特別の響きがあるウインブルドン。この大会にだけに使用されるセンターコートはテニスプレイヤーあこがれの場所である。

 すがすがしい7月、ロンドン郊外にあるウインブルドン、ケント公爵夫妻を迎えての表彰式、チャンピオンに贈られる大皿、雨が降ると芝のコートをおおう緑色のカバー、全員ボランティアというスタッフの整然とした動き、おそろいの制服、そして何よりコートの芝が素晴らしい。あこがれの場所ウインブルドン・センターコートだ。

  長岡リリックホールのパンフレットをみるとコンサートホールとシアター、そして10のスタジオがあると書いてある。しかし、リリックにはパンフレットに掲載されない特別な舞台がある。リック正面玄関に向かって左側、くぼみのような、緑の芝に覆われた場所。何の変哲もない場所、そこに設計者の壮大な意図があったのではないかと思われるくらい何の変哲もない場所。そこは年に一度、野外劇でしか使われない「ポケットステージ」がある。

 すがすがしい7月、長岡市郊外にあるリリックホール、市長を迎えて、市民による野外劇がこのポケットステージで上演された。この何の変哲もないポケットステージが三日間、別世界になる。芝の丘の上には照明用のやぐらが大きく組まれ、壁面のコンクリートは全面布でおおわれ、日が暮れ始めるとステージめがけて四方から赤青黄色とカラフルな照明がまぶしいほどに投げかけられ、大きなスピーカーからはビートのきいた曲が流れ出し、まぶしく照らし出されたステージには衣装を着込んだ50人ほどの人々が所狭と曲に合わせて躍動している。彼らは、まるでリリックにおけるウインブルドン・センターコートに立っているような緊張感に包まれている。

  幕が開く直前の舞台裏、出演者は緊張でジッとしていられない。ステージ脇にいるから声も出せない。あかりが漏れないように電気も消されて真っ暗。必死で緊張をほぐそうと深呼吸をする。舞台から漏れてくるセリフを頼りに出番を待つ。サー出番だ、それ行けー、ポンと舞台に出ればそこは、ギラギラとライトを浴びて真っ昼間。曲にあわせて踊り出す。客席を見れば、顔、顔、顔、とにかく観客の顔だらけ。それ行けー。自分にハッパをかけて思いっ切り踊り出す。がむしゃらに踊り出す。アッという間に曲が終わる。ステージから退場する。拍手が聞こえる。舞台裏に入る。一気に緊張がほぐれる。あ〜、と力が抜ける。仲間と目が合う。ほほえみあい、自然と握手を求めて行く。ヤッタねー、拍手も来ていたよー、ヤッタねー。達成感が得られる。この瞬間、大変だった練習は喜びに変わり、演劇をやって良かった、という気持ちがわいてきた。

48才税理士、演劇経験ゼロ、お父さんのリリック野外劇「じゃじゃ馬ならし」体験記である。続きは私のHP参照のこと。( http://tmc.nagaoka.niigata.jp )


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