★セールスマンの死★

もはや、英米文学を専攻する人々の中では「必読書」ともなった

アメリカが誇る劇作家「アーサー・ミラー」の傑作。

その主人公として、悲壮感漂う老セールスマンの役を

「卒業」「フック」等で有名な「ダスティン・ホフマン」が名演している。

まさに普段の生活における経験が功を奏したのであろう。

ぴったりの役である。

また、よく失敗することがある戯曲からの映画化であるが

これは「傑作」の名に恥じない、見事に完成されたものだった。

原作を読んでいるのと同じ興奮・感動が、ひしと伝わってくる。

私は今、この文章を鑑賞後30分ほどして書いているのだが

全くもって、その気持ちが冷める気配はない。

おそらく、もう一度見てしまうだろう。

ネタばらしになるといけないので、そのストーリーについて

敢えて多くは語らないが、

物語が進むに連れて重みを増してくる悲壮感は、見る者を同情させ

ラストに待ち構える悲劇に、必ずや号泣することだろう。

(1985.ワーナー映画制作)

http://www.din.or.jp/~doj/salesman.html ★映画レヴュー★


アーサー・ミラー全集1

ジャンル:海外小説・戯曲・ビジネス(評者:藤光伸)

  著者:アーサー・ミラー、倉橋健訳

 出版社:早川書房

本体価格:2913円

発刊年月:1988/11

  形態:単行本

ページ数:329P

ISBN4-15-203034-8

 
《病める社会を四人家族に投影させた『セールスマンの死』が初めて邦訳されたのは1950年。しかし今読んでも色褪せしていない。50年の時間を経ても、病める社会の構造は変わっていない。》

【満足度評価】★★★★

 企業の営業職に変化が起こりつつある。これまで対面販売が中心だったものが、コンピュータにとって変わられてきた。松井証券は、営業マンを廃止し、証券情報をインターネットで提供しはじめた。社長のこの考え方に、古い営業マンは「馬鹿げている」「尋常じゃない」と言って猛反対した。営業マンの人件費を「情報」という、より高度な付加価値に転換する。当然、コストは下がる。そして業績は落ちるどころか上がっている。
 日本型生命保険が外資系に蹂躪されている。生保レディが人海戦術で保険の勧誘をしていたのが従来。今はコンサルティング・セールスを実施する会社が、シェアを急速に伸ばしている。製薬会社の営業マンは、昔はプロパーと呼ばれていた。それが今はMRと名前を変えた。接待中心の商談型から、真の学術情報の提供(Medical Representative)に変身したのである。
 そんな時代を意識しつつ、アーサー・ミラーの代表作を読んだ。戯曲を読むのは久しぶりだった。セールスマンの父親・ウイリーは60歳。毎日見本を詰めた重い鞄を下げて、担当先であるニュー・イングランドを駆け回る。彼は先代の社長のときから、ニューヨークに本社のある会社に勤めている。彼には妻と二人の息子がいる。家は25年ローンで購入し、まだローンが残っている。生活は苦しい。だから仕事をやめるわけにはゆかない。彼は移動負担のないニューヨークで勤務をしたい、との希望をもっている。
 父親は、二人の息子に大きな夢を抱いて生きてきた。ところが息子たちは、思うように社会的な地位をかちとれない。子供たちのジレンマ。父親の歯がゆさ。この戯曲は「思い通りにならない」老人と若者を、家族の枠におさめて描き出している。
 二幕の戯曲なのだから、小説のようにはゆかない。そんなハンデを、会話・動作・表情・照明・音声などがカバーする。戯曲を読む楽しみは、会話と会話をつなぐ、こうした「ト書き」にある。
 ――台所が明るくなる。ウイリーは、話しながら、冷蔵庫の扉をしめ、舞台前方の食卓のところへくる。グラスにミルクをつぐ。彼は、まったく自分のことしか頭になく、かすかに微笑をうかべている。――
 現在から過去の回想場面に戻る。そして場面が再び現在に戻される。この時空間を越えた会話と会話の間に、作者の意図が凝縮されている。
 病める社会を四人家族に投影させた『セールスマンの死』が初めて邦訳されたのは1950年。しかし今読んでも色褪せしていない。50年の時間を経ても、病める社会の構造は変わっていない。子供に過度な期待と夢をかける父親。創設当時の恩義を忘れて、老いたセールスマンを邪険にする二代目社長。月賦を払い終わるころに壊れる家電。野菜を育てるスペースさえない狭い空間。
 アーサー・ミラーは従順だった幼いころの息子たちを、繰り返し舞台にあげる。それがいっそう、老いたセールスマンの悲哀に深い陰を刻む。
【評者プロフィール】

■藤光伸(ふじみつ・しん)
E-mail:fwjc5539@mb.infoweb.ne.jp
1946年、北海道生まれ。50歳の誕生日を機会に「読書ノート」を書き始める。現在53歳。昔は安部公房、黒井千次、倉橋由美子、小檜山博を夢中で読んだが、最近は若手作家が中心。阿部和重も町田康も藤沢周も赤坂真理もみんな成長している。そんなところをデビュー作から丹念に読んで、成長過程を記録している。新人作家の母子手帳を書いているような感じがする。会社では企画マンですぞ。まだ現役。若手作家の書評をオジンの視点で今後も紹介するぜ。過去、現在、未来が見える書評を心がけております。

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