●あらすじ
4幕の喜劇。
美しい「桜の園」の領主ラネーフスカヤ夫人は、夫と息子を亡くした悲しみを抱えパリに出るが、そこでの生活は自堕落なもの。破産寸前の領地へ5年ぶりに戻ってくるが、彼女の浪費癖も、パリにいる愛人への執着は変わらない。かつてのラネーフスカヤ家の農奴の息子で、今は実業家となっているロパーヒンは、桜の木を伐採して別荘地として賃貸しするよう提案するが、夫人とその兄ガーエフは、それを卑俗な意見として退ける。彼らは思い出に浸るばかりで、領地の経営能力などはまるでない。
競売の結果、「桜の園」を競り落としたのはロパーヒンであった・・・。
●見どころ
作者はこの戯曲を「悲劇ではない。喜劇である」と明言している。
かつての農奴の息子に領地を競り落とされ、愛着のある「桜の園」がその目の前で伐採される・・・確かに、ラネーフスカヤ家の人間の立場に立てば、これは悲劇である。しかし、第三者の目に「悲しい」と感じさせるには「同情」が必要である。この作品の中には、見事なまでに同情に値する人物がいないのである。金銭感覚に乏しく、愛人にうつつを抜かすラネーフスカヤ夫人、昔を懐かしみ、訳の分からぬ戯言ばかりのガーエフ、家の切り盛りに追われ、やたらと信仰心を持ち出すワーリャ・・・。希望に満ちたアーニャにだけは好感を持てるが、その希望に何の根拠があるのか。使用人も含め、登場人物は一癖も二癖もある連中ばかり。そして、すべての登場人物がその思いを達することができないまま、バラバラになっていく。
こういった「計算された不調和」が微妙なバランスで保たれており、それが痛烈な皮肉となっていておもしろい。
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