the induction method

愛人の方程式


  「愛人の方程式」というのがあります。世の中、正規の恋愛でなく世を忍ぷ男女の仲にふさわしい年齢があるというのです。

  それは男性の年齢を2でわり、7を足した答えが女性の年齢。この年回りが愛人として居心地がいいというわけです。

  この学説を酒場で披瀝するとウケますねぇ。

  めいめい一瞬、宙を見てしばらくしてからちよっと頷きます。あの部長に六本木のチーママ、部長は50過ぎだから・・・(フムフム、30ちょっとのあいつにサークルの後輩の女子大生・・・・、そして何より白分の思い出を探ると、あの時心ときめいたあの人はたしか・・・・。

  どうして決まってるの?、誰が決めたの?、と聞かれます。もともとはある雑誌で読んだのですが、まあ経験則でしよう。そして現在これを今夜も人に尋ねて社会的有効性を確認しているという次第です。

  また「お小遣い1%の原則」というのもあります。サラリーマンなどお父さんの毎月のお小遣いは年収の1%という説です。500万円の人は月5万円、800万円のお父さんは月8万円、という計算です。職種、会社によって賞与の多寡に差はありますが、小遣いは月給手取額ではなく年収に比例しているという学説です。これが正しいとすると月額給与は変わらなくても残業がなくなり賞与が薄くなった昨今、お父さんの景気回復はまだまだですね。この1%原則も総理府統計局や労働省が発表したものではなく、巷間伝わる経験則です。

  このような学説は先年学会で発表されたというようなものではなく、酒場で開陳される理論ですが、もともと人は目の前を通り過ぎる数多くの事象から法則を見つけて行くものです。人間は経験を整理し、帰納的に法則を打ち立てるのです。

  しかしその法則が正しいとしても適用はむずかしい。

ルーレットは<赤>と<黒>そして数字にお金を賭けるギヤンブルです。ある時続けて7回<赤>の目が出ました。<赤>に賭続ける人がいます。カジノのルーレット台の回りの人が沸き立ってきます。8回目、9回目また<赤>です。何が起こったのかとルーレット周辺の雰囲気に自分のゲームを中断して人々が集まってきます。

  <赤>が出る確率は2分の1、<黒>の出る確率も2分の1、ならばいくらなんでももう<黒>が出るはず。2回連続して<赤>が出るのは4分の1、3回連続して出るのは8分の1、10回の<赤>が続くのは何百分の1。必ずや次は<黒>、と<黒>に掛け金が集まります。ところが10回目も<赤>。山済みのチップが回収されてしまいます。次はいかんと見守られる中、やっと<黒>が出ます。人々はしだいにルーレット台の周囲から離れ、カジノは何事もなかったかのようにまたもとの冷ややかなゲーム場に戻ります。

  しかし考えてみてください。確率論の教えるところ、常に次の出目は2分の1。これまで連続して何回<赤>が出ていたかに関わらず新しい賭けは2分の1。人が賭けているのは何回同じ色が続くかということでなく、次の1回の目。

 賭けの対象はあくまで次の出目ですから、これまでどうだったかに関係なく<赤>が出るも<黒>が出るも確率は同じと考えるべをなのです。これが確率論の法則。確率論の基礎は経験則ですが適用を誤ってはいけません。

  たしかに、いくら<赤>が続いても、確率的には次回も五分五分。しかし世の中、数学が教えるようには動かない、今夜は運命の女神が<赤>に肩入れしているようだ、よっしもう一度<赤>だ、という人生もあっていいはず。勝負は五分五分、解釈決断するのはあなたなんですから。

 今年、知新会は認識と解釈ということを考え直します。

<酒と女とギヤンブルを語る カンノ 記>


租税法研究 知新会 会報 Sep.1995 発行人 菅野敏恭


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Last Updated: 5/2/96