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目に見えない財産


敏(トシ):しばらくぶりイ。今年もよろしく。

 まだ今年もこの会の世話人をやるの ? このビルボードの巻頭文、毎回書くの、結構、疲れてきたんじゃない、A版になって文章も増えるし。

恭(ヤス):まぁネ。前回('94ー10月)、この巻頭文を男と女の対話形式にしたときも、「家族」をテーマに一年間、巻頭文を書くのに疲れた窮余の一策というわけで‥‥、対話にすると字数が稼げるのよ、意外と。というわけで今年一年、よろしく頼むよ。

トシ:まぁ、そう下でに出られれば‥‥、弱いし。

 で、今年は「目に見えない財産と租税法 ー 知的財産権をどうとらえるか」ですって。まぁ、また大風呂敷を‥‥。


ヤス:知的財産権というのは、物権、債権につづく第三の権利といわれてますがね、どうも伝統的な法学部カリキュラムでは、主流じゃないんですな。租税法と同様、司法試験・公務員試験にないからかな。法律学はどうしてもパンのための学問ですからね、国家試験にない科目は結果として流行らない。

 でも‘21世紀は権利ビジネスの時代だ’なんて、いま注目の法分野ですし、先日、ハーバード・ロースクールの夏期講習の案内が送られてきたけど、カリキュラムの中で Copy right の講座なんか結構、幅を利かしてましたよ。


トシ:知的財産権って、特許とか著作権でしょ。日本人は、目に見えない価値にどうもお金を払わない、と言われますでしょ。

ヤス:昭和6年にね、ドイツのウィルヘルム・プラーゲ博士という人が、東京に事務所を開いて「私は外国の著作権者の代理人だ。外国の楽曲を私の許可なく勝手に使うな」と、当時としては、ばか高い著作権使用料を請求したそうです。しかも内容証明を送りつけ、裁判も辞さないという構えです。これを世に‘プラーゲ旋風’と言うのだそうですが、このため、NHKでさえ一年間ラジオ放送、当時はラジオしかなかったんだけど、その放送で外国の曲を使えないということがあったそうですよ、実際に。

(安藤和宏『よくわかる音楽著作権ビジネス』P.18)

トシ:東洋には、オリジナルという概念が希薄なのかもしれないわね。東洋には、工芸はあるけど芸術はないでしょ。


ヤス:でもこれからは、そうも言ってられないでしょう。たとえばオリンピック。近代オリンピックが開かれて、年々盛んになると、経済的には主催国側の持ち出しになるんですが、ロサンジェルス・オリンピックから、儲かるビジネスになったようです。テレビ放映権は競争入札でテレビ局に売ることはともかく、協賛企業を募って、オリンピックという語とマークの使用をそこだけに許可するわけです。そのためには、オリンピック委員会と契約したコンサルタント会社が世界中に飛んで、従来、オリンピックという名称を使っていた企業店舗、五輪マークを無断使用していた者に警告をし、法的手段に訴えると半ばおどし、それから使用範囲を決めた契約を結んで使用料を取っていったようです。日本の地方都市の喫茶店にまで来たという話が伝わっています。

 オリンピックというものの持つイメージが、財産価値を持つということに気づいて、お金にしていったのですね。

トシ:これからは、権利ビジネスというわけね。そこで、ちょこっと勉強してビジネス・チャンスを掴もうなんて考えてるの ?


ヤス:いやぁ、それより、こうした目に見えない財産は、まだ馴染みがないから租税法でも会計でも扱いかねているんですよ。

 機械設備なんか使っているうちに消耗していくでしょ。ところがこのような知的財産は、使い減りがしないんですよ。作曲された楽曲は、世界各地で演奏されるし、オリンピックの五輪マークもスポーツ・ドリンクに使って、Tシャツに使っても価値が下がるものではないのですからね、価額評価は難しい問題がある。開発や購入にいくらかけたか、という原価の積み上げで計算しても、金をかけたのに失敗ということも間々あるだろうし。本来は、将来の利益貢献から評価するべきかもしれないけど、将来の見積もりでは不確定要因が多すぎる。会計でいう「歴史的原価主義」つまりマーケットから購入した取得価格を頼りとする会計実行に‘ほころび’が出るかもしれないというわけ。

トシ:そういうと教育や研修なんかもそうね。子どもの教育にどんなに投資しても将来は分からないし、研究会だ研究会だって毎月のように集まってお金を使っても成果が上がらないじゃない。それより、美味しいものでも食べた方が‥‥

ヤス:そういえば、美味しい‘あんきも’を出すとこがあってね、‥‥どう?ちょっとこれから‥

〈これじゃ、トーブンやせるのは無理だわ、の 菅納 敏恭 記〉


租税法研究 知新会 会報より 発行人 菅野敏恭


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Last Updated: 5/14/96