金子宏教授講義録「地方自治の真髄」


以下の記述は平成10年1月に、知新会例会において金子宏教授がシャープ勧告の「地方税関係」について発表された内容についての私の受講録として、知新会会報に掲載された原稿です。 


税理士 高野裕

1 知新会とシャープ勧告

知新会の名前は金子教授が名付け親であり、その意味は「温故知新」の言葉からくるものである。今回のシャープ勧告「地方税関係」発表担当は金子教授からの申し出により実現したものであって、我々会員一同望外の喜びであった。教授は、開口一番「知新会の名前の由来から考えても、知新会がシャープ勧告を勉強することは意義あること」とのお話を頂いた。シャープ勧告の地方税関係発表において金子教授が最初に指摘されたことは、とにかく、現在の地方分権に関する会議で論議すべき内容が含まれており、特に「付録A地方団体の財政―D職務の分掌」169頁、に記載される三原則は「地方自治の真髄」であると述べられた。

2 地方自治の三原則

その三原則とは、「1.能う限り、または実行できる限り、三段階の行政機関の事務は明確に区別して、一段階の行政機関には一つの特定の事務が専ら割当てらるべきである。そうしたならば、その段階の行政機関は、その事務を遂行し、且つ、一般財源によってこれを賄うことについて全責任を負うことになるであろう。2.それぞれの事務は、それを能率的に遂行するために、その規模、能力および財源によって準備の整っている何れかの段階の行政機関に割当てられるであろう。3.地方自治のためにそれぞれの事務は適当な最低段階の行政機関に与えられるであろう。市町村の適当に遂行できる事務は都道府県または国に与えられないという意味で、市町村には第一の優先権が与えられるであろう。第二には都道府県に優先権が与えられ、中央政府は地方の指揮下では有効に処理できない事務だけを引受ることになるであろう」と記されている。

3 地方自治の真髄

ところで、シャープ勧告が考えた地方自治は、@地方住民が行政に対し自ら真の要求をなし、その需要を賄えるだけの税による資金力を自治体がもっており、その行政行為の結果に対し、住民が喜んで納税するような地方自治、A中央政府の慈悲にすがることなく予算立てできる保証、B地方自治体に各税の賦課と各施策の実施に関する責任を集中させること、C貧困な地方には中央政府が特別の支持―平衡交付金―を与える、以上の4ポイントを主張している(第2章E節21頁参照)。そして、シャープ勧告は述べる、「われわれがこの勧告に基いて地方自治強化の期待を置いているのは、まず、比率ではなく構造においてである。地方団体がその活動の云わば限界線において真に自由―活動の際明確に責任を持って前進しようが、また、後退しようが自由―であるならば地方自治は現実のものとなり得るのである」。(第2章E節22頁)このような基本的姿勢のもとでシャープ勧告は住民税、不動産税、その他税について勧告をなしている。

4 地方税の基本は自治

金子教授はシャープ勧告を読み返してみての感想として、「今日議論されていることが多い」と述べられ、まさにこのようなシャープ勧告を勉強することは「温故知新」であり、知新会には丁度よいテーマであると結ばれた。報告後、意見交換のなかで「基本は自治の問題」であると述べられ、丸山真男の説明を引用され明治以前は地方に自治があったことを指摘された。そして、シャープ博士の近況についてお話を頂いた。


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Last Updated: 98/5/4